「沈黙の町で」最終回について

 こんばんは、星野です。本日は「マウリッツハイス美術館展」へ行って参りました! 見たかった「真珠の耳飾りの少女」の他、「ディアナとニンフ」等、どれも珠玉の作品ばかりで嬉しかったです。
 出品数も多過ぎず少な過ぎず、丁度良い感じだったのもGJ♪(正直、あまり多過ぎると疲れてしまいますので…)あの真珠の光沢、どうやって出すんだろうなぁとか、光と影の見事なコントラスト等、どうやってやるんだろう…? と疑問がしきりです。
 ――さて、今回はその美術展の主催である朝日新聞で連載されていた「沈黙の町で」最終回について、遅くなりましたがちょっと色々語ってみたいと思います。
「続きから」でどうぞ。
 まず、正直思ったのは。
「ええ……? これで終了??」
 でした。
 名倉君や坂井君の視点も結局描かれる事が無いまま、ただ語られたのは「あの日、何があったのか」これだけです。
 色々と読者の想像に任せる、というのも一つの手法として有りだとは思っていますが、正直これはちょっと無いでしょう……と。

 結局、藤田君による強引なラケットレンタル(…実際は、もはや只のかつあげ状態ですが)に対し、それを免れる方法として「隣の銀杏の木に飛び移れ」と命じたのがきっかけでした。
 これはもう、立派な犯罪です。…もはや「いじめ」とかそういう言葉で括れるモノですら無い…。
 母が言うには、あそこで名倉君の死を知った健太君達が逃げるように校門から去って行く、そのシーンから冒頭のシーンに繋がるそうですね。ある意味「これが真相です!」と言われればそれまでなのかも知れませんが……。
 ちょっと投げっぱなし感は否めません。

 ……それにしても。
 訴訟するのも辞さない構えな名倉君の母。
 甥っ子の死を商売に利用しようとする義弟。(名倉君から見て伯父)
 健太君達を信じたい担任の教師。
 そして、息子は何も名倉君の死には関わっていない、濡れ衣だなどと言う坂井君の母。

 どれもこれも、若干、そう言いたくなる気持ちも解るというのがまた、何とも複雑です。

 結局のところ、どこまでが正確に言うと名倉君の死に関わっていたのでしょう。
 キャンプの密告を皆で責めた辺りか?
 それ以降、飲み物を奢らせたりした辺りか?
 一年が「気絶ごっこ」の被害にあった子の仕返しと称して、皆して名倉君の背中をつねった辺りか?
 女子がみんなで愛子ちゃんが蹴られた仕返しに、名倉君の背中をつねった辺りか?
 それとも、藤田君がして来た数々の仕打ちか??

 少なくとも藤田君のラケットの件については確定…というより、本当に刑事事件に発展しうる話でしょう。
 しかし、他の皆については、一言でそれが名倉君の死と因果関係があるか? と問われれば、微妙と言わざるを得ません。
 ただ、名倉君の死と直接の関わりが無かったにせよ。
 人一人死んでいるのに、「俺達、友達だろ」の一言で結局藤田君の事を「黙っている」事を約束してしまった健太君。(読んだ限りでは、警察の取り調べでも話していなかったと思います)
 そして、名倉君の家へ来て、色々話をしても結局、女子皆で名倉君の背中をつねった事は話さなかった安藤さん。
 なんだかんだ言いつつも結局皆と一緒に名倉君を蹴ったり飲み物を奢らせたりもしていた坂井君。

 正直、皆やっぱり「いじめ」の加害者である事実には変わらない…と思います。
 名倉君がただの「被害者」ではなく、放っておいたら更に弱い存在を見つけていじめっ子になりそうなイイ性格の子だったとは言え、少なくとも、死なせて良い理由にはならないでしょう。

 そしてこの年頃特有なのか? 警察の取り調べに対しても藤田君の行為を話していない健太君ですが、あれは正直友情なんかではありません。友情と、違う何かをはき違えている気がします。
 背中をつねった件についても、坂井君は一年達を庇って、当初は自分達4人だけがやった、という形で警察に嘘を吐きましたが、あれも別に「庇ってやった」なんていう格好良いモノでは断じてありません
 真実は隠されて、そして名倉君の遺族は未だに苦しんでいる。…と思うと、彼らがするべき事は安っぽい友情ごっこに扮して自分達の罪を隠す事ではなく、本当は自分達がやった事を全部話す事だと思います。
 ただ、加筆があろうが何だろうが、結局、真相は(名倉君の遺族側には)明らかにならないような気もしますね。…現実でも、きっと殆ど、真実なんて隠されてしまうのでしょうし…。

 明らかに積極的に名倉君をいじめていた藤田君はともかく、健太君を始めとして他の皆が思っているのは、「あれは名倉側にも非がある事で、いじめなんかじゃない」なんですよね。
 …では実際、どこからが「いじめ」になるのか?
 彼らの言い分は、勿論気持ちは分からなくも無い部分もあるのですが、若干自分達に都合の良い自己弁護も含まれているな…と思わずにはいられません。(別に、嫌いならもう関わらないようにする&目に余る場合はやっぱり教師に相談するなりして、相応の処置を取って貰えば良い訳です。…何も、皆で蹴ったり背中をつねったり、飲み物を奢らせる必要はありません)
 この辺をどう扱うのか? はちょっと気になっていました。
 また、他には
 名倉君の母が「真実」を知った時、どんな風に思うのか?
 裁判沙汰になるのかどうか?
 坂井君は心の中でどう思っていたのか?
 そして、肝心の名倉君はどういう気持ちだったのか? 特に、ラケットの件があったとは言え、今までやっていなかった銀杏の木へ飛び移る「度胸試し」を、何故急にやろうという気持ちになったのか?

 ――この辺は、読みたかっただけに残念です。
 
 ……ただ、一連の色々を読んでいて、取り敢えず校長先生がテニス部の4人の大会出場辞退を決めたのは、確かに妥当な判断だと思いました。結局皆、坂井君の母が言ってるような「無罪」なんかじゃない訳ですから…。
 正直、他の部員達も少し気の毒かも知れませんが、いっそテニス部全体を出場辞退にして、少しでも自分達が招いた事態の重大さには気付いて欲しい、と思います。

 また、いじめっ子の母親達が、皆して「うちの子は悪くない」的な気持ちの一点張りというのも何とも言えません。現実でもこういう親っていそうだな、と思います。
 確かに我が子が一番大事なのは当たり前ですし、まだまだ将来これからで一番多感とも言える中学生の時期に、下手をすれば前科が付くような事態になるのは避けたいでしょう。
 けれど、それはやっぱり「子供を大切に思う」というのとは、ちょっと違う気が…。
 それは只の過保護というか甘やかしというか。
 償うべき事はちゃんと償う、という事をきちんと教え込まなければ、それこそロクなモノにならない気がするのですけど……。
 愛情、というのは時に只のエゴになりますが、その典型なのでしょうか。
 
 いずれにせよ、扱う題材が題材なだけに、作者も落とし所は難しかったのかも知れませんが、正直もう少しきちんとした着地点というか、この作者なりの「答え」は知りたいです。
 単行本化する時は、大幅に加筆&補完があると信じて、単行本になったらまた最初から読んでみようと思います。

 ――大分遅くなりましたが、「沈黙の町で」最終回に寄せての感想でした。
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拍手コメントありがとうございました> akaさま

こんばんは! 暑い日々が続いていますね。私は少しバテていますが、普通に過ごせています。

本当に、ちょっとあの終わり方は残念でしたよね。
単行本化の際の加筆・修正は期待したいと思います。…最近のニュース等でも色々この問題については取り上げられていますが、現実でも単純な問題ではない事は明らかです。ただ、だからこそ、小説の中では一つの答えが見たかった…とも思います。
肝心の名倉君も、決して「良い子」ではなかった訳ですしね。(名倉母は、息子は良い子で、悪い所など無かったのに一方的にいじめられた…と思いたい気持ちが強いと思いますが、実際はそうではない訳で。名倉母が、どこまで「真実」を知るのか? そしてもし「真実」を知った時にどう思うのか? この辺りも描いて欲しいな、と思っています)

akaさまも、厳しい暑さが続いておりますのでお体に気を付けてお過ごし下さいませ。

No title

リアルで詳細な記述の完成度の高い小説でした。
登場人物の一人ひとりの性格や心理を描き分け、
惹きつけて離さない物語に仕上げた筆力に驚嘆でした。
トラックバックさせていただきました。
トラックバックお待ちしていますね。

コメントありがとうございました>藍色さま

 藍色さま、コメントありがとうございました…!!
 よもやこの記事にコメントあろうとは。。

 妙にリアルでしたよね。…実際にありえそうな生々しさで、ついつい読み込んでしまいました。
 それだけに、最終回がちょっと物足りないなぁとも思いました。登場人物それぞれの「言い分」がまた、かなりエゴも入っているものの、理解できなくはないなぁ…という部分もありますね。
 
 トラックバックありがとうございました!
 こちらからもトラックバックさせていただきました…使い方がイマイチ分かってないのでうまくできているか不安ですが。。
プロフィール

星野 海紀

Author:星野 海紀
徒然なるままに様々な事を書き綴っています。現在は「キングダム」&「ゴールデンカムイ」、「テラフォーマーズ」に熱いです。他に聖闘士星矢や遊戯王、旅行記等、話題の範囲は広いです(笑)

連絡先:natch.2002ina★gmail.com (★をアットマークに変えて頂ければと思います)

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