■最後に成した『大仕事』に、満足しての大往生か。蔡沢じいちゃんお疲れでした…。 思えば、初登場時からいいキャラしてたなぁと思います。
「早う大きゅうなりなされィ、大王様。この蔡沢は、強き者にのみお仕え致しまする」 まるで水墨画の中の仙人のような佇まいで登場しながら、王に対しても臆せずかなり強烈な一言を口にした蔡沢。
呂不韋の四柱だった時から、彼はあくまで
「自分が仕えるに値する人の為に働く」スタンスを貫いていて、その清々しいまでのブレなさはいっそ好感が持てたものです。
結構な老齢でありながら、西に東に奔走し、その弁舌一つで様々な外交をこなして来た蔡沢ですが、その彼にしても今回は異質な仕事でした。
なんと趙の李牧と斉王を咸陽へ連れてきたのです。…それも、許可も無しに。
その過程で、斉王を無事に通過させる代わり、李牧を一緒に連れてけという趙からの要求も勝手に呑んだ事に対していきり立つ大臣達に対し、「気に食わなきゃこんな首その辺の棒きれで叩き折っていい」とさらっと返し、その上で政に対しては「東の大王と西の大王、この会談の意味は大きいものです」と説く姿にも、何かこう…嫌な予感のようなものを感じてた訳です。
まるで本当にこれを「最後の仕事」としているかのような。
――しかしその「仕事」は、確かに成果を挙げました。
斉王が政に対して「これが『侵略戦争』ではないと言うなら、侵略される側の民が納得出来るものを示せ」と求めたのに対し、政が提示したのは「法治国家」の考え方でした。
全ては法の下、平等に裁かれるべきと。それは王や貴族であっても例外ではなく。
人が裁き支配するのではなく、あくまで「法」が公平に裁く世界。それは、半ば諦めの境地にあった斉王にも、そして蔡沢にも一つの「道」を示したようです。
正直、合従軍から抜けたときの斉王は、戦もある種ビジネスの一環として割り切ってるような、かなりドライな印象を受けたものでした。ただ、そういう飄々とした食えない態度の下で色々と思う処はあったんだなぁと。
蛇を食べてるだけの変な人じゃなかった………。
そして、政が示した道に対し、斉王が出した「答え」は、なんと。
政の眼が曇らぬ限り、
「斉は秦の戦いを静観する」というものでした。…それはつまり、事実上の「降伏」を意味します。
この会談中、昌文君がひたすらリアクション要員になっているのが残念でならないのですが(^^;)、頑張れ昌文君。昌平君ではなく、敢えて彼がこの場に呼ばれた意味は、それなりにある筈だし…!!!
――さて。
もちろん、これはあくまで非公式のものですし、単なる「口約束」に過ぎません。今後の政次第で簡単に覆るものです。
それでも秦にしてみれば、斉が他の国の後押しをしない、というそれだけで相当な兵も救われる訳です。合従軍の時だって、斉が一抜けしてくれた事は、相当大きく働きました。
それだけに、本殿で待つ李牧がこの二人の王の会談に何を想うかは気になる処ですが…。(ぶっちゃけ李牧にしてみれば、あの合従軍失敗の一因に斉の離脱も絡んでる訳で、斉王に対しては元々あまり印象も良くないでしょうし)
斉王にも、そして蔡沢にも深く感謝する政ですが、蔡沢は逆に「感謝するのはこちらの方」と返しました。
かつては彼も世を導く道を探しながら、それを「諦めた」人間でした。
しかしもしかしたら、まだその「道」はあるかも知れない。その光を示してくれた若き王を新たに仕える主としたのは、蔡沢自身がその言葉に大きく心動かされたからに他なりません。
そうは言っても、その道が遠く険しい事もまた事実。
「"道"も"光"も"戦のない世界"も、実現できねばただの稚児の戯言と同じです!」 きっちり手厳しい言葉で締める事も忘れてないのが流石です。
こういうときの据わった目は、流石の海千山千を乗り越えてきたお爺ちゃん…!!
中華統一に辺り、最大の障壁となりうるのが、あの趙三大天の一人・李牧です。
それをまずはどーにかしなければ、趙を抜く事が出来ません…。何せ彼は、我武神という最強の切り札も持ってますしね…。
未だ登場せぬ三人目の三大天も気になりますし。
それはともかく、その李牧の強さについては斉王もひしひしと感じており、「李牧にはまだ余裕があり、その強さは想像以上だ」と語ります。
いずれは信達もまた対峙するであろう趙最強の名将。しかし政もまた、これより出てくるであろう新たなる大将軍達が必ず李牧の首を取る、と宣言しました。
…李牧さんは黒羊の戦いでも桓騎将軍の力を見誤ってあの…慶舎さんを死なせちゃったりしてますし、ちょっと余裕こき過ぎな気もしますが(^^;)、いずれにせよ、今後激化するであろう李牧との闘いに備え、今回本殿で待たせている李牧との会見もまた、今後の為に重要になるでしょう。
李牧にとっても、合従軍の時まで政はノーマークの存在でした。
しかし今後はもう、ノーマークではなくなるでしょう。李牧も、斉王と政の会談の内容もさることながら、今回は呂不韋ではなく「政」を見極める為に秦まで来たのでしょうから…。
「あまり待たせると会談の重さを李牧に勘づかれまする」
蔡沢はこう言いますが、あの李牧のこと、薄々と「読んでました」になりかねない気もしますね(^^;)
さて、どの道李牧を長く待たせる訳にもいかず、続きは夜の酒宴で…と、本殿へ戻ろうとしたその時。
「大王様。ご武運を」
にこりと笑みを浮かべる蔡沢。
…ああ、きっとこれがもう…( ノД`) と思っていたのですが………。
本当にこれが最後でした。
――しょっちゅう胸の辺りを抑えてたり、何か嫌なフラグが着々と立ってるよと思っていたら。
「何とか………
もったな。蔡沢」
一体、何が「もった」のか。
「あれは千年に一人の王だ。そなたのわがままに付き合った形でもあったが、よくぞ秦王と俺を引き合わせた。あの王になら本当に実現できるやもしれぬ。それぞれがかつて探し求めた世界を…」
その言葉に返答は無く、不審に思い近づいた斉王は、すぐに悟りました。
満足げに笑みを浮かべ、静かに目を閉じたその姿。
「……最後に、成して行った仕事は真に大きかったぞ。蔡沢」 そう、これが蔡沢の「最期の」仕事となりました。
燕出身で、身一つで秦の丞相の座を手にし、昭王に始まり政まで4代に渡る秦王に仕え、中華西端の国・秦から東端の斉に至るまで文字通り東奔西走の活躍で秦を支え続けてきた男。
剛成君蔡沢、死去。
「結末は儂が責任を持って見届けてやる…」
数々の功績を遺したにも関わらず、彼を見送ったのは斉王ただ一人。しかしそれでも、きっと蔡沢にしてみれば満足な人生だったのでしょう。
ずいぶんとその体は冷たかったようで、「いつからこと切れていた」と斉王が内心呟くほど。
もはや
精神が肉体を凌駕していた状態だったのでしょう。
どうか安らかにお眠りを…。
そして恐らく、無意識に政もその最後の瞬きを感じ取ったのか。
先ほど話していたその場所を思わず振り返ります。………が。
彼にはまだ、これから成さねばならない大仕事が一つ。
李牧との会談で、彼は果たしてどんな「戦い」をしてみせるのか!?
――次号、休載か………。蔡沢じーちゃんを偲んで、徳利で酒を一杯やるとしましょう。
…もういっそ、李牧も政の「光」を感じて「私も降伏します」って言ってくれれば良いものを…(ボソッ)
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